待ち合わせにぴったりのバーがある。
繁華街のかど。
週末のテーブルは、語り合う大人たちでおおよそ満席。
ガラスの扉がひっきりなしに開いたり閉まったりする。
分かりやすい場所にあるし、
遅い時間でも開いているので、
時折、その恩恵に授かって、老若男女と待ち合わせをする。
いつものカウンターバーに向かう前に、
今日は顔見知りと待ち合わせ。
その間のオーダーは、
その店のラムコークも好きで、時々、お願いする。
ラムのほのかな甘さと炭酸が溶け合って、
約束の時間まで唇を濡らすのにちょうどいい。
そんなとき、時間つぶしに、
たまに持ち歩くメモ帳をバッグから取り出す。
使い古しているけれど、お気に入りの一冊。
メモの中身はというと、
アルコールが前頭葉を諫(いさ)めている最中のこと…
その日のちょっとした出来事や、明日の予定。友達との約束。
どちらかと言えば、
たわいもない、思いつきだったり、
ふと思い出した小さな用事だったりもする。
ただ、翌朝になってそのページをめくってみると、
何と書いてあるのか、
自分でもよく分からないこともしばしば。
酔いのせいだろう。
へなへな文字。
何を書こうとしていたのか、判読できない始末だ。
自らに暗号解読という難解な課題を課しているようなもの。
さて、その待ち合わせのバーのテーブルは、相変わらず、満席続き。
カウンターの隅に空きを見つけて、一人、小さくなってウイスキーの水割りを頼む。
テーブル席で、友達や仲間とあれこれ話しながらの一杯も好きだけれど、
待ち合わせの刹那(せつな)なら、
カウンター席が断然、楽しいように感じる。
バーの面白さは、飲み物を作ってくれるバーテンダーさんの手際を眺めるのも、楽しみの一つだから。
待ち人、来たらずなのか、
静かに杯を重ねていらっしゃる方もいれば、
待ち人への催促か、スマホを手放さない方もいらっしゃる。
時間はそれぞれに過ぎていく。
思い思いに過ごすひととき。
今夜も街のあちこちで、
小さなドラマが幕開けを待っているに違いない。
主人公じゃなくても、脇役でもいい。
その小さな一場面に立ち会えたなら、その瞬間を楽しもう。
「今日を走り切る!」
今日という日を、どう満足のいくものにするか。
一日一日の小さな積み重ねが毎日の生活につながる。
夢中になって、「今日」を過ごしていくうちに、
「気が付いたら、問題は解決していた」ってことだって、たまにある。